左は、奥様の千代美さん


幻のコーヒーに始まる創業

国道348号線の大通りから山形駅方面の北へ斜めに入った通りに、ひときわ大きく不思議な形をした屋根の建物が見えてくる。それが幻のコーヒー「トアルコ トラジャコーヒー」の原産地インドネシアの高床式住居トンコナンを模した珈琲専科「道」の建物である。



創業は昭和49年で、移転前は程近い鉄砲町交差点の南西角にあった。「一貫清水」という井戸のあった所で、傍の三水釣具屋の前は鳥居ヶ丘の石鳥居への道があり、その昔には瀧山信仰の参詣者達が喉を潤した所ともいう。現在の店主の父で初代の田中一彦氏(故人)は33歳の時に、そこで喫茶「道」を創業した。当時、喫茶店は駅前か七日町辺りにしかなく、郊外店としては珍しかった。

トラジャコーヒーを復活させたのはキーコーヒー株式会社の副社長で天童出身の大木久氏で、現店主の二代目浩彦さんも初代と共に大木氏と交流があった。

「大木さんは山形に来ると必ず店に立ち寄って行かれました。温厚な方で、私も大木さんのキーコーヒーに就職したぐらいです。中学時代から店の手伝いをしていましたが、厳しい職人堅気な父のもと、私は両方の好い面を吸収できたのだと思っています」

一彦氏が創業に踏み切ったのは、大木氏が日本で初めてトラジャコーヒーを事業化させた翌年であった。それほど二人の友情は固く、その後の「道」の不動を確かなものとした。


南向きに東西に広い店内


夢をつなぎ広げる発信基地

創業26年後の平成12年に現在地に移転、トンコナンの建物に新築した。しかし、オープンして1ヶ月後に一彦氏が他界、夫婦2人でのスタートとなった。従業員も何人か使い、その難しさにも苦労した。乗り越えられたのは、ひとえに大勢の人の支えと新しい人とのつながりが楽しかったからと、浩彦さんは言う。

「私の店では10時間かけた水出しコーヒーも出しています。淹れ方でシャープにもフルーティーにもなりますが、売りのコーヒーだけでなく、メニューのどれにも一つ一つ作品としての思い入れがあります。」




そのメニューの中で、近年人気なのがパフェ類である。「スウィーツ」という言葉が相応しいデザート感覚のクリエイティブなメニューを揃えている。


「店づくりには自由自在ということが大切です。様々な人生の道を歩んでいる方々が仲良く集まれる店にしようと始めたわけですので、お客さん同士がパーティーやイベントなどで繋がっていってほしいし、若い人には喫茶店は『大人の学校』であってほしいと思います。喫茶店にはいろんなお客さんが来られます。毎日がドラマです」

夢は広がる。「道」の始まりはトンコナンのこの店だ。屋根のとんがりがその発信基地を象徴している。



珈琲専科 道
山形市鉄砲町 3−1−63
TEL. 023-631-2483
営業 9:30〜21:00
(日・祝 9:30〜19:00)
定休日 水曜日

(出典:『やまがた街角 第85号』2018年発行)

●『やまがた街角』とは
文化、歴史、風土、自然をはじめ、山形にまつわるあらゆるものを様々な切り口から掘り下げるタウン誌。直木賞作家・高橋義夫や文芸評論家・池上冬樹、作曲家・服部公一など、山形にゆかりのある文化人も多数寄稿。2001年創刊。全88号。