『八文字屋plus+』創刊号の表紙イラストを担当してくださったのは
日本画の技法を活かして現代的な絵画を描く、鬼頭祈さん。
落ち込んだときに本屋に行く理由とは?


八文字屋plus+ 創刊号の表紙を描き下ろしていただきました。



本屋に行って外の世界とチューニングを合わせます

―――絵に興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?

鬼頭 物心ついたときには、絵を描いていましたね。今は墨と筆を用いた日本画が私の描き方ですが、最初はいろんな画材を使っていて、クレヨン、油絵、何でも使って描いていたと思います。

―――「日本画にしよう」と決めたきっかけを教えて下さい。

鬼頭 出会いは高校生のときです。日本画に「琳派」(りんぱ)というジャンルがあるんですけど、初めて見た瞬間にときめきを感じました。同じ時代に生きていなくてもその作家と、ときめきを通じて対話ができる気がしたんです。私が考える日本画の特徴は線。下書きなしで筆でスッと描く線は、やり直しができない緊張感があります。デジタルで描くときもありますが、紙に筆と墨で描くときの〝描き味〞を私自身も大事にしていますね。



絵画作品では、主に顔彩・岩絵具・墨・和紙等、日本画の画材で描いている。筆で描くときのときめきも大事な瞬間。



―――映画「シン・ウルトラマン」や漫画「ゴールデンカムイ」のグッズなど、鬼頭さんの普段の絵とは離れている作品とのコラボもされていますが、そのときは描き方も変わるんでしょうか。

鬼頭 いや、そのままですね。私はいわゆる漫画らしい絵を描くのは苦手で…。普段と変わらない素の絵でコラボさせていただいています。それを受け入れていただけているのは、ラッキーです(笑)。

―――鬼頭さんの作品がもつゆるいかわいらしさは、唯一無二の魅力ですよね。制作のために本を読むことはありますか?

鬼頭 私は落ち込んだときやふさぎ込んでいるときに本屋に行くことが多いです。基本的に家で絵を描いているので、ほぼひとりの世界。そうすると、どんどん視野が狭くなっていくから、外の世界とチューニングを合わせるために本屋に行くんです。でも、本屋を楽しいと思い始めたのは大学生のときから。京都の大学に進学して、恵文社やガケ書房(現在は閉店)と出会って「こんな本屋があるのか!」と目覚めた感じ。地元の静岡では大型店舗にしか行ったことがなかったので、個人経営の本屋には仰天しました。オーナーの目利き力というか本以外にも作家さんの展示や雑貨があったり、さまざまなカルチャーが本屋に大集結。そこでいろんな本屋を知りたいと思うようになりました。



小人やイチゴをモチーフにした作品を多く手掛けている。日本画の技法で描く“ゆるいかわいらしさ”が人気だ。



―――セレクトショップのような個人経営の本屋は楽しいですよね。本屋で必ず立ち寄るコーナーはありますか?

鬼頭 最初に行くのはファッション誌コーナーです。10代の子が読むものやマダム向け、同世代のものなど、いろんな世代の雑誌を見ます。ファッションに詳しいわけではないですが、服はときめきの象徴じゃないですか。尖ったものやゴスロリなど自分が普段着ない服を見るのも楽しい。アート本を見るよりインスピレーションをもらえるし、テンションも上がります。あとは高校生の頃から川上弘美先生の小説が好きです。母が読んでいたのがきっかけだと思うのですが、新刊が出たら絶対チェックするぐらいファン。川上先生の本は、人魚や妖怪などが日常生活にスッと溶け込んで登場する作品が多いんですね。私の作品にも小人が出てくるんですが、それは川上先生の影響なんです。読む度に、インスピレーションをいただいています。実は今、川上先生の連載エッセイで挿絵を描かせていただいているんです! 編集の方がリンクするものを感じてくださったようで、お話をいただいたときは、夢かと思いました。

―――すばらしい縁ですね。これから日本画家として挑戦していきたいことを教えて下さい!

鬼頭 学生の頃はバンドをやっていて、今も趣味でギターを弾いているので、自分が描いた絵と音楽を組み合わせて何か作品を作れたらいいですね。あまりカタチにこだわらず「今やりたいこと」を発信していきたい。ヨーロッパで展示もしてみたいですし、その時々で思いつくことに挑戦していけたら一生、人生を楽しめるかなって思っています。

構成・文/中山夏美