八文字屋plus+ Vol.10 夏号


『八文字屋plus+ Vol.10 夏号』の表紙イラストを担当してくださった芦野公平さんは、多様なイラストのテイストを持ち、媒体のカラーに合わせた絵を描きます。その中に潜む“芦野さんらしさ”が魅力です。

29歳でイラストレーターを目指す

―――イラストの仕事に就こうとを応募しました。運良くいくつからかくするイラストが求められて思ったのはいつ頃ですか?

芦野公平さん(以下芦野):実は明確に「イラストレーターが夢」と思ったことはないんです。両親が武蔵野美術大学出身で絵画教室を経営していたので、絵とは触れ合っていましたが、絵を仕事にとは考えませんでした。ただ大学受験に失敗したときに、親の勧めもあって武蔵美が運営する美術学校に進学しました。

―――美術学校で、絵との関わりが深まるんですね。

芦野:油絵を学びましたが、仕事とは結びついていなかったです。就職氷河期でもありましたし、とくにやりたいこともなく、絵を描いていない時期も。その中で29歳頃、たまたま吉祥寺(東京都武蔵野市)にある古本屋でスウェーデンの現代作家さんの作品集を見たときに衝撃が走ったんです。ついに「やっぱり絵を描きたい」という気持ちが沸き起こってきました。

―――学ばれた油絵で仕事をすることも考えていましたか?

芦野:油絵を学んで挫折をした身ではあるので、同じことをしても意味がないなと。2人目の子どもが生まれたタイミングでもあり、「絵で食べていく」ことを強く意識していました。大多数に「いいね」と思ってもらえる絵であることが必要であると考え、今のようなテイストでの方向性を模索し始めたんです。まずは登竜門として位置づけられているコンペに作品を応募しました。運良くいくつかの賞をいただきましたが、仕事はあまりいただけず……。嘱託職員としても働きながら、空いた時間にたまにイラストの仕事をする、という期間が長くありました。

―――今は、さまざまな媒体でイラストを拝見しますが、キーポイントになった仕事はありますか。

芦野:2017年に原宿で個展を開いたのが大きいと思います。ギャラリーの展示料が一週間で20万。当時の私にとって決して安くはありませんでしたが、決意した意味はありました。プロのイラストレーターとしてスタート地点になったことは間違いないです。



忙しい暮らしの中で得られる生の感性こそが自分らしさ

―――イラストを描くときに大事にされていることはありますか。

芦野:アカデミックな内容や社会的なテーマの依頼が多く、難しめの内容を優しく伝える、印象を柔らかくするイラストが求められているのかなと思っています。クライアントが求めているものを表現するのも私の仕事です。ちなみに今回の表紙イラストには八文字屋の「八」を忍ばせています。

―――描くことに煮詰まったとき、何かでインプットはされますか?

芦野:正直な話、仕事以外での自分時間はほとんどないです。妻は会社勤めをしているので、家事の大半は私がしていますし、生活の中心は家族。アイデアが煮詰まる時間すらないです(笑)。私がiPadでも描ける線画イラストにしているのは、子どもが病気をしたときや休日に仕事をしなければならないときに、家族が隣にいても絵が描けるから。日々、生活に追われてはいますが、何かその中で生まれる〝生っぽさ〞というか暮らしで感じたものが反映されている絵が描けているのではないかとは思っています。

―――今後、新たにチャレンジしたいことはありますか。

芦野:昨年、7年ぶりに個展を開催しました。仕事は誰かのためにベストを尽くすことに集中していますが、個展では自分を喜ばせる絵も描きたいなと思うようになりました。絵本制作にも興味がありますし、パーソナルワークとしての絵にも挑戦していきたいです。


昨年開催した個展では普段の芦野さんのイラストとは、ひと味違った作品を発表。仕事としての絵だけではない、新たな”芦野さんらしさ”が見られた。作風に囚われない独特の雰囲気が持ち味だ。


取材・文/中山夏美


※本記事は『八文字屋plus+ Vol.10 夏号』に掲載されたものです。
※記事の内容は、執筆時点のものです。