新しいもの、好きなものにたくさん出合った少女時代。そのときに心震えた気持ちは、大人になっても胸の中にあり続けるもの。『八文字屋plus+ Vol.4 秋号』表紙のイラストを描いてくださった杉浦さやかさんに、イラストレーターを30年続けてきて改めて感じた “好き” を教えていただきました。


――「絵の仕事をしたい」と心に決めたのはいつですか?

「6つ上の姉と2つ上の兄も絵が好きで、母も描く人。姉と年の差があることもあって、小さい頃から漫画の描き方を教えてもらったり、兄と合作で絵本を描いたりも。物心つく前から絵に触れてきたので、保育園の頃にはすでになりたい仕事になっていて、小学生のときには漫画家、高校生ではイラストレーターを夢見ていました」

――漫画も描いていたんですか?

「小学生で『なかよし』(講談社)と『りぼん』(集英社)を読み始め、漫画投稿用に原稿用紙やペンを揃えて描いていました。でも描いている途中の漫画を姉と兄に大笑いされて(笑)。投稿するまでには至らなかったのですが、大学ノートにいろんな漫画を描いていて、クラスで回覧したりはしていました。小学6年生のときがいちばん熱中していて『なかよし』のサイン会にも積極的に参加。自分の好きなものがたくさんでき始めていた時期でした」

――ファッションやカルチャーへの目覚めもその頃ですか?

「それは中学生になってからです。姉の影響で『mcシスター』(婦人画報社)や『オリーブ』(マガジンハウス)を読み始めて、どんどん興味が出てきました。渋谷にあった『文化屋雑貨店』という雑貨屋さんが大好きになり、キッチュでおもしろくて、ちょっと怪しいものを集めたりしていました」




――雑誌を読まれていたことがイラストレーターという仕事を知るきっかけにもなったんですね。

「そうですね。雑誌にイラストエッセイが載っていたり、西村玲子さんの本も好んで読んでいました。女性のイラストレーターが活躍されていたので、職業として意識するようになったんだと思います」

――それで大学在学中にデビューされているのは、すごいですよね!

「最初は大学の先生方からまったく評価されていなくて。だけど、講師だった安西水丸先生(※1)の講評を初めて受けたときに『君はイラストレーターになれるよ』って言ってくれたんです。すごくうれしくて、そこからさらに真剣に描くようになりました。作風も『固まり過ぎ』と言われることが多かったのですが、水丸先生は『好きなものを描いたらいいよ』って言ってくれて。その言葉に救われました」

――水丸先生の言葉が人生の転機となったんですね。イラストエッセイも描かれていたんですか。

「中学の同級生と20歳ぐらいまで続けた交換絵日記がそれに近いものでした。欲しい服や雑貨、気になるカルチャーを絵と文で構成して描いていたんですね。その交換絵日記は何冊かとってあって、今回の本を描く参考にもなったんです」

――新刊は80年、90年代に好きだったものを描かれていますが、日記を参考にされているんですね。

「小学4年生からの日記や、スケジュール帳、雑誌の切り抜きをまとめたスクラップノートを見返しました。現在も続けているので、10年ほど前に日記の重さに耐えかねた本棚が崩落してしまって(笑)。だいぶ捨てたのもあり、記憶を辿るのは大変な作業ではありました」




――過去を振り返ると、好きなものに変化は感じられましたか?

「さほど変わっていないですね。好きな映画やファッションは、ほぼ同じ。私にとって『好きなもの』は、小さい頃の経験が大きいと感じました。多分、子どものときって自然に “好き” に出合えていたと思うんですよね。だからもし今、好きなものが見つからない方がいたら、子どもの頃に夢中だったことを思い出してみると、発見がある気がします」

――自分の好きと向き合ってきた杉浦さんが次に発信していきたいことはありますか?

「これまではキレイなことや楽しいことを、中心に描いてきましたが、実は今、私の更年期と娘の反抗期がぶつかり合って、そういう自分だけではいられない状況で…。人生50年を生きてきて、ネガティブなことを描いてみる機会をいただいたんです。本当は人に晒したくはないことをおもしろくユーモアに描いて、自分らしく発信してみたい。イメージにない自分を出すのは怖いですが、娘と向き合うためにも新境地を開拓したいと思っています」

(※1)安西水丸
1942年生まれ。1970年代からイラストレーター、漫画家、エッセイストと幅広く活躍。村上春樹氏の本の装丁を手掛けていたことでも知られる。代表作は『ピッキーとポッキー』(福音館書店)など。2014年逝去。

杉浦さんを象徴する3つの “好き”


【夫と共に集めているこけし】お土産こけしから鳴子温泉の「伝統こけし」に出会い、沼へ。「100本以上のこけしを持っていて、家のあちこちに飾っています。好きが高じて鳴子温泉のマップや、こけしグッズも作らせていただいています」


【イラストレーターになるきっかけの新聞】20代の頃、本を出すきっかけとなったのが自作の新聞だ。「気になったお店や観た映画、おいしかったごはんをまとめた新聞を作って配っていました。今も定期的に作っていて、毎回新刊にも入れているんですよ」


【数十年続けている日記とスクラップノート】小学生から続ける日記と、絵を描くときに参考にするスクラップノート。「ポーズ集や、ファッション、雑貨など50冊はあります。ノートに雑誌から切り抜いてペタペタ貼るだけ。そろそろ置き場所がないです(笑)」


新刊情報



 

すきなもの たのしいこと AtoZ
’80s ~’90s少女カルチャーブック

著/杉浦さやか
祥伝社
1650円(税込)

杉浦さんが10代だった80年代から90年代初頭に触れた「すきなもの、たのしいこと」を詰め込んだ1冊。