ウォール・ストリート付近にあるシーポート店は、18世紀に建てられたレンガ造りのビル内にある。

ニューヨークの本屋といえば、「マクナリー・ジャクソン」。マンハッタンとブルックリンの便利なロケーションに位置し、美しい内観で知られる。多くの読者と作家に愛される、その理由とは?

ニューヨーカーは書店が好きだ。誰でも行きつけの、お気に入りの一軒がある。
本を探しに行くのはもちろん、待ち合わせの場所だったり、ただの暇つぶしだったり、トイレを借りたり。

書店は、本の用事以外でも頻繁に訪れる存在だ。そんな風に単なる書店という枠を超えて、多目的スペースのように愛されているスポットが、「マクナリー・ジャクソン」だ。
2004年創業で、旗艦店のノリータ店を始め、現在では市内に支店を3店舗、文房具のショップ「グッズ・フォー・ザ・スタディ」を2店舗展開している。

今冬には、更に新しい店舗がロックフェラーセンター内にオープンする予定だという。パンデミックで多くの書店が閉店を余儀なくされる中、また書籍のデジタル化の影響をまるで受けていないかのように、根強い人気を誇る。同店は、いかにニューヨーカーの心を掴んでいるのだろう?

児童書のイベントマネージャーで、記録保管人、スタッフフォトグラファーで、詩人としても活躍するイボンヌ・ブルックスさんはこう語る。

「創設者のサラ・マクナリーは、丁寧に本を選び、訪れた人が楽しく、満足するような場所を提供することを心がけました。またスタッフ一同で、誰でもコミュニティに歓迎されていると感じられるような空間づくりを目指しています。シーポート店には、カフェコーナーが併設されていますが、そこで児童書作家と読み聞かせのイベントを開催し、誰でも参加できる雰囲気をアピールしています」


旗艦店の地下階で行われた満員御礼のトークイベント。

元の建築、梁を生かしたシーポート店の雑誌コーナー。

ノリータ店はアート学生にも人気の場所。



児童書の作家が読み聞かせを行うシーポート店の野外イベントは、多くの子どもと家族連れで賑わう。

書籍のセレクションも豊富だ。クラシック文学を常備し、一番人気のジャンルである、新着のノンフィクション、フィクション、料理本、アート、建築、歴史、児童書など、様々なジャンルをカバーしている。

インディー系のファッション雑誌も多く、特に外国文学とアートに関する本は優れた品揃えで、太宰治や川上未映子の英語版、日本の漫画も揃う。
コミックブックのファンは、新着リリース時にどんな本が入荷されたか、毎回楽しみにして来店するそう。また「黒人作家」や「女性作家」など、毎月テーマに沿ったフェアを開催しているので、その月ごとに、今まで知らなかった作家の本を手に取ることができる。

人気作家が多く登場するイベントを頻繁に開催

店内で開催されるイベントも多い。週に4回はワークショップや本のリリースパーティーを催し、ズーム上で行われるオンラインのイベントもある。

通常は新刊を発表する作家を選出するが、どの作家を招待するかは、スタッフ内でリサーチをして決める。リサーチは、多くの出版社から提供された、出版前の新刊見本を読んで吟味したり、メディアに掲載されたブックレビューを調べたり、業界の口コミ、ブックアワードのノミネートの情報収集など、その方法は多岐に渡る。

イベントでは、インタビュー形式のほか、パネルディスカッションを設けて、新刊の書籍に関連した話題や、時事問題について話し合うこともある。同店のサイン会は、著名人が登壇することで知られるが、今までにノーベル文学賞候補として常に話題の作家、ジョイス・キャロル・オーツや、パフォーマンス・アーティストとして世界的に人気があるマリーナ・アブラモヴィッチなど多くの有名人が登場している。

イベントには、多くの人が足を運び、質問や議論が飛び交い、活気がある。その盛り上がりはニューヨークならでは。


ニューヨークでは、ほぼ毎日のように、どこかの書店でサイン会や朗読会などが開催されている。


イボンヌさんは「ニューヨーカーに長い間愛され続けている地域密着型の書店として、お客さん一人一人が素敵な時間を過ごせるように、配慮しています。現在読んでいる本や、書籍の感想、おすすめなどを尋ねられると嬉しいし、スタッフはそんなコミュニケーションを大切にしています」と話す。

シーポート店のカフェでは、読書やコンピューターで作業している人、おしゃべりに花を咲かせている人など、誰もが自由な時間を過ごしている。本を通して、他者と繋がり、コミュニティに参加できる。ニューヨークの書店として、追随を許さない理由は、そこにあるのだろう。

マクナリー・ジャクソン HP/www.mcnallyjackson.com
写真/Yvonne Brooks