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桜の横綱

村上 和雄

(長井市教育委員会 文教の杜管理人)

※一部表現・肩書き等に掲載誌発刊時点のものがある場合があります。


近年「置賜さくら回廊」と銘うって、南陽市、長井市、白鷹町に点在する桜の名木を観てまわるコースが設定され、なかなかの人気がある。その中でも長井市の久保ザクラと草岡の大明神ザクラは、共に横綱クラス。今回はこの二本の桜を紹介しよう。

 

さて、まず東の横綱「久保ザクラ」だ。市役所から南東へ約二・八キロに位置し、伊佐小学校校庭そばにある、エドヒガンという樹種で、樹高一六・〇メートル、目通り(幹周り)九・〇メートル。大正十三年国の天然記念物に指定された日本でも指折りの桜の巨樹だ。この地区はたおやかな山に囲まれ、風が少なく、土が肥えており、果物や野菜がよくとれる地理だ。老木が生きながらえる条件がそろっていると言えそうだ。

 

伝説には、延暦十六年坂上田村麻呂が蝦夷征討にこの地に来たとき、豪族の久保氏の家に泊まった。そこで久保家のお玉という女が手厚く接待した。将軍が去ると、お玉は追慕の情に堪えず、翌年病で死んでしまった。将軍はこの訃を聞いて、一株の桜をお玉の墓に植えて、墓標としたという。また、宝永五年に描かれた「窪桜図」という見取図が残っており、その当時の幹周りが、二十二尺五寸(六、八メートル)という記録があり、推して、樹齢千二百年説が言われている。

 

この桜も十年ほど前から、樹勢の衰えが見えたため、土を掘り根の様子を調べた。すると過去に水を通しにくい土が、客土として盛られた跡があり、次第に根が弱ったことがわかった。そこで三カ年にわたり土壌を入れ替え、幹の朽ちた部分や枯れ枝の除去などを長年施してきた。その後若い根が増えるなどその効果が徐々に表れ、ようやく元気を取り戻した。

 

さて久保ザクラはたくさんの支柱で枝が支えられている。その数六十本至。そこで他の桜も調べてみた。陰になって見えない部分もあるだろうが手元の写真で数えると、福島県三春滝ザクラは十三本。岐阜県根尾谷薄墨ザクラは約三十本。ダントツ日本一である。それでも雪で枝が折れることがあるから、過保護とはいえない。昔から受け継がれてきた地区民の桜への愛情の表れということだろう。

 

次は西の横綱、「草岡の大明神ザクラ」だ。市伎所から北西に的四・三キロ、西根小学校グラウンド北に位置する。同じエドヒガンで、樹高一七・二メートル、目通り十・九メートル。平成十一年県指定の文化財だ。樹高、幹周りともに久保ザクラをし のいでいる。個人の所有で屋敷内にあり、遠くから展望できないというハンディーがあるが、こちらもなかなか見応えのある巨豊。

 

言伝えによると、伊達正宗が鮎貝の合戦に初陣として加わったとき、戦いに敗れこの桜の洞に隠れ、難を逃れた。そのため後に家臣を遣わして保護にあたらせた。との話がある。

 

桜のある場所は、縄文時代の遺跡で知られている長者屋敷遺跡の東約六百メートルに位置する。この地域は積雪が多く、西山から流れてくる水を利用して、庭には池を作り鯉を飼っている家が多い。また扇状地の上の方に位置し比較的水はけの良い土壊だ。また久保ザクラと比べ、近くにあまり人が入らなかったので、地面が締め固められていないことが良かったのだろう。ただ平成十一年の暮、稀にみる重く湿った雪が枝にのしかかり、太い枝が数本折れてしまった。そこで、その後二年に分けて十四本の支柱を掛け、肥料をやり、また地下排水を良くするようパイプを埋める工事を行った。いったい今年はどんな花が咲いてくれるのか楽しみだ。

 

さて、この二本の桜、目通りの数値では、日本で二番と三番になるという。回廊の他の桜も同様に、大木に神の存在を信じ、 畏敬の気持ちで守ってきた祖先の思いが伝わってくる。花もさること幹を見ていると、吸い込まれそうな感動にしばし時間を忘 れてしまう。花よりだんごはおいしいけれど、 それぞれ樹には、だんごよりおいしい味わいがあるものだ。

 

(出典:『やまがた街角 第5号』2002年4月1日発行)


 

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