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わたしの愛読書(後編)

※一部表現、寄稿者の肩書等に掲載誌発刊時点のものがあります。


◎大原蛍(東北幻野主宰)
 状況は混沌。閉鎖的なテリトリーにしがみつくことだけは回避しなければならない。読書の密かな楽しみは、一般通念を楽々と越境し、私たちの精神を何ものにも囚われぬ自由な状態に遊ばせることにある。卑俗きまわる想像力も、楽々と学問実証の世界と密通できるという回路がしまわれている。

 

『絵のなかの魂・評伝田中一村』新潮社・湯原かの子著
 十代の頃から南画家として早熟の才能を発揮。東京美術学校に進学するも中退。青龍展で川端龍子と衝突し、中央画壇との一切の交流を絶ち、奄美大島に渡り、数々の挫折に会いなからも、徹底した観察にもとづく色彩豊かな花鳥画を描き続けた孤高の画人の評伝。生前ほとんど人に知られることなく、没後、奄美の粗末な小屋から発見された彼の絵は、日本美術界の奇跡と呼ばれた。鮮やかな細部にまで神経をゆきわたらせ、植物の髄液、景観の風音まで描き切る、かたくなな芸術志向の厳しさとはかなさが、芸術という名の永遠という糸で結ばれている。

 

日本の伝統』講談社現代新書・岡本太郎著
 この夏、青森の三内丸山遺跡に遊んだ。岡本は、久しく続いていた縄文考古学の鎖国的体質を、戦後いち早く解放させた考古アマチュアの一人である。縄文文化の類ない魅力を縄文土器の造形力と生命力という視点から、ダイナミックにかつ立体的な空間感覚、アヴァンギャルド芸術に結びつけ、その優れた造形性に現代芸術との接続を嗅覚し、その後あまた排出する縄文芸術論の基礎を形作った。いささかみられる独善的飛躍も、固定観念を軽々と越境していて楽しい。

 

寺山修司・ちくま日本文学全集』筑摩書房・寺山修司著
 寺山の戯曲、「毛皮のマリー」を読んだ時は、愕然とした。「演劇が建物や施設ではなく、劇的な出会いの場をしかける手法であり、虚構を作り上げる遊撃は、世界と時間と場を共有する方法であった。寺山のことばの一行の魅力は、自分の感性と生存のありよう、また、深く他者との関係性を切なくすくい上げるしなやかさに満ちている。哲学や美学やしばしば音楽を越境し、拡散していく芸術のはるか彼方にある束の間の美が拘束されている。

 

  人生はただ一間の質間にすぎぬ
   と書けば二月のかもめ 寺山修司


◎荒木信雄(山形市立図書館ボランティア委員会委員長)

 

タオ 老子』加藤祥造著
 老子は孔子と同時代の人で生没年未詳と言われている。八十一章は「道」ではじまる「道教」と、「徳」ではじまる「徳経」になっているが、どこを読んでもかまわない。
 老子は東洋哲学の精髄とも云われているが、これまでの書は難しく読む機会がなかった。詩集を読むような感覚で読めた。例えば(三十三章)「自分のなかの富」…他人に勝つには/カずくですむけれど/自分に勝つには/柔らかな強さが要る。/…と書いてある。

 

ちいさいことにくよくよするな!』リチャード・カールソン著 小沢瑞穂訳
 勤めていて悩んだとき、書店で目にとまった本である。一〇〇の項目でやるべき事柄を明示し、戦略やサジェスチョンを与えてくれる。当時二十項目くらいに自分の問題を感じ、解決に向かう元気を貰った記憶がある。
 仕事を離れ古希の年代に入った今でも、まだ五〜六項目の心しなければと思うところかある。「ちがう視占の記事や本を読もう」と言うところを実践しなければと思っている。

 

漆の実のみのる国』藤沢周平著
 藤沢文学のリズムを感じ、破産寸前の藩の財政に対処した鷹山と周囲の人間関係が強く心に響く。藩主自ら範を垂れ行動する姿や、騒動には公正を示して解決に当たる様子にすっきりする。人間重視の施策にも心を用い、学館を再興する経過も述べている。
 企業の経営で末端にあったころ、業績が悪化し改善に努めたが効果がなかなか出ないでいる時、この本に出会い励まされた。経営の参考書でもあったと思っている。


◎山澤進(ヤマザワ社長)

 

『血液をサラサラにする健康法』石原結實著 光文社
 石原先生は現代医学を「木を見て森をを見ず」と称しています。病気を胃腸、肝臓、脳といった臓器別に見ようとし、人体全体を見ようとしない態度にことに起因する。つまり、人体を部品の集まりとしか見ていないというのです。食物と血液の性質との関係を解り易く説き、血液の汚れを取り去ることにより病気に負けない身体をつくるという健康に気遣う人のための一冊です。

 

『石原式温め健康法』石原結實著 日本文芸社
 二冊目も石原先生の本を紹介します。決して東洋医学や民間療法は非科学的ではありません。「冷え」の体質を治し「温め効果」で病気に打ち勝ち、体が温まれば体内の免疫力が増し、自然と病気が治るという、誰にでも簡単にできる健康法です。人間が本来持っている「自然治癒能力」を引き出すための方法をすぐに実践できるようにまとめています。私も実践しています。是非お勧めします。

 

免疫革命』安保徹著 講談社インターナショナル
 三冊目も健康に関する本の紹介です。世界的免疫学者が解き明かす、ガン、アトピーのメカニズム。病気になる仕組みのひとつを分かり易く、丁寧に書いた本です。画期的な免疫学から見た、ガンの本当の原因と目からウロコの治療法とは? 免疫力が上がると、病気が治癒に向か宇野はなぜか? 結論は自分の身は自分で守らなければいけない。この本はこの「体のしくみ」を学ぶのに適した一冊です。


◎熊谷眞一(シベール社長)
 私は代表取締られ社長役、会社を代表して”何か偉大なもの”に取締られ、あるいは見守られ乍ら「社長」という役割を担っている存在と現象。

 

 宮沢賢治が生前出版出来たわずかに二冊のうち、心象スケッチ集春と修羅の「序」はこのように私を導いた。
 立ち入ることを拒みながら、瑞々しく誘ってくる文章に、私は殆ど何も理解出来ないまま、魂を打ち抜かれて「そうか、そうだったのか」と身体の真中から得体の知れない何か力のようなものか湧いてくるのを覚え、トタンに何もかにもが軽くなったのを思い出す。
 風景やみんなと一緒にせわしくせわしせわしく明減しながら、いかにも確かに灯り続ける因果交流電灯の一つの青い照明、そのような光がもしあるとすれば、それは会社自身がそうであって、私はそれを照らす照明器具にすぎない。汚れたらいつでも取り替えられる運命、素直に上等なシャンパンを飲み干すように納得出来た。
 「会社とは何ぞや、仕事とは何か、社長とは何者か」悩み抜いていた頃である。

 

 私は実際に菓子職につく前に、三度菓子屋になろうとした。
 その三度目のきっかけとなったのは、高校一年の時に読みかかったプルースト失われた時を求めてである。
 はじめの、スワンの章に”プチットマドレーヌ”があって、挫折を繰り返すごとにあのマドレーヌのシーンだけは何度も何度も味わい直した。
 そして私の菓子屋になる動機は万全となった。

 

 井上ひさし“太鼓たたいて笛ふいて”は劇を二回見てから台本を読んだ。
 フイゴのように私を熱くして、ある形へと打ち直してくれたようである。


◎大久保義彦(市芸文協会長)

 座右の書は沢山あるが、その中から三冊を選ぶとはなかなかむずかしい。結局いつも手もとにある文庫本となってしまった。

 

『絵のない絵本』アンデルセン 大畑末吉訳 岩波文庫
 貧しい絵描きの若者に、毎晩月が空の上から見たいろいろの出来事をかたるロマンチックな物語。三十三話の小篇か
らなる物語には、淡く美しく夢がある。窓から射し込む月の光に思わず話しかけてみる。

 

奥の細道・附曾良随行日記』角川文庫

 松尾芭蕉が元禄二年、今から二百十五年前、江戸から大垣までの奥州・北陸路を百六十日を越える紀行文。このうち四分の一にあたる四十余日が山形にあったことは「奥の細道」が山形にとって意味深いものであることをしめす。全文ばかりでなく、曾良随行日記をあわせ読むと興味は尽きない。県民必読の書ともいえる。

 

山月記』中島敦著 新潮文庫
 最初に読んだ時の驚きは今でも忘れることは出来ない。小説とはこういうものなのか。虎に身をかえた李徴のかなしみが、事の意外な発展とともに幻想の世界に引き込まずには置かない。

 

 

(出典:『やまがた街角 第20号』2004年10月1日発行)


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